秋の月は日々戯れに


「いいんですよ、分かっていますから」


何が良くて何が分かったのか、聞いてやろうと思っていた気持ちが、得意満面な彼女を見て即座に萎える。


「さて、じゃあ同僚さんが戻ってくる前に、結婚とは何かについて、一緒に適切な答えを考えましょうか!」

「なんでですか……一人で考えてくださいよ。俺を巻き込まないでください」

「またそんなこと言って。あなただって本当は」


続く言葉を遮るようにして、玄関のドアが開く。

本当はなんなのか――そのあとに続くはずだった言葉が気になったけれど、ドアを開けて入ってきた同僚の様子に、彼の意識はすぐさまそちらに移った。


「……どうか、したのか?」


さっきとは明らかに違う、暗く沈んだ表情。

手元に落ちていた同僚の視線は、彼の問いかけで僅かに持ち上がった。


「えっ?あっ、ううん。……ごめん、大したことじゃないんだ」


そう言って力なく笑った同僚は、また手にしたスマートフォンに視線を落とし、真っ暗な液晶画面をしばらくぼんやりと見つめる。
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