One Night Lover
危機感
華乃は自分から健を求めたことで
健との関係が少し変わった気がした。

そしてそんな華乃に健は結婚を急かす事も少なくなり、また優しくなった。

結局、健はずっと華乃の気持ちを確かめたかったんだと華乃は思った。

藤ヶ瀬はあれから華乃に何も仕掛けて来なかった。

華乃はそんな藤ヶ瀬の気持ちが全くわからなかったが
もう藤ヶ瀬との事は忘れようと自分をセーブしている。

それでも何となく藤ヶ瀬の事を目で追ってる時がある。

携帯のバイブの音で我に返り、藤ヶ瀬から視線を外した。

「今夜ウチに来て。」

と健からメッセージだった。

健はあの日以来、華乃をよく部屋に呼んで
華乃はあの日以来、健と肌を合わせる時間が増えた。

でも自分から求めたあの時みたいには感じない。

あの時、華乃は藤ヶ瀬の余韻が残ったままで
満たして欲しくて健に抱かれたのだ。

それでも健の前で華乃はあの時みたいに感じてる演技をして健を満足させた。

それでうまくいっていた筈だった。

しかしそんな時、華乃は健のベッドの上で見たことのない小さなイヤリングを見つけた。

華乃はそれを見つけても健には何も言わなかった。

健はその存在に気がつかずに華乃を求める。

華乃は健に抱かれながらそのイヤリングがベッドの上で健の動きと一緒に跳ねるのを見つめていた。

結局、愛なんてそんなもので
愛してるなんて言っても
健も健で他の女と平気でこんな風に裏切るのだ。

「華乃…良くない?」

「ごめん…今日は…少し疲れてて…気分が乗らない。」

華乃はそう言ってイヤリングから視線を外し
ベッドから起き上がった。

「今日は帰るね。」

やっぱりそれは少しショックだった。

人は大切なモノを時に忘れて
欲に溺れる生き物なのだ。

それは自分に当てはまった。

華乃はトボトボと自分の家に向かって歩く。

気がつかなかったけど涙が頬を伝って落ちた。

その涙は健の浮気に対してではなく
不甲斐ない自分に対しての涙だった。

「華乃!

渉が華乃を見つけて走って来た。

華乃が泣いていたのに驚いて
渉は華乃を心配する。

「どうした?」

華乃は何も言えずにただ泣いた。

渉が華乃の涙を拭って
自分の部屋に連れて帰った。

華乃はしばらく泣いていて
渉はどうする事も出来なかった。

「華乃…一体どうしたんだよ?
何があったのか話してごらん。」

「先輩…浮気したことある?」

渉の部屋で少し泣き止んだ華乃が急にそんなことを聞くので渉はそれを察した。

「まさかあの男、浮気したの?」

「良くわかんないけど…
知らないね、イヤリングがベッドに落ちてた。」

そして渉は黙って華乃の頭を撫でた。









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