One Night Lover
逢いたい人、逢いたくない人
華乃の表向きの異動の理由は総務に欠員が出たためとの事で
華乃が選ばれたのは宣伝部に人員が足りてる事と
今は大きな仕事を担当していない華乃が動くことが一番仕事に支障がないからと課長から言われた。

「そういう訳で異動ばかりで申し訳ないが…
来週から総務へ行ってくれ。」

課長にそう告げられただけで
華乃みたいな中途半端な社員はたらい回しにされて終わりなんだと思った。

せめて仕事がちゃんと出来たら
健のように実力があったら、
藤ヶ瀬のように権力があったらと華乃は思う。

「わかりました。」

会社にそう告げられたら雇われてる限りそれは絶対で従うしかない。

華乃は流されて生きてる自分が恥ずかしくて惨めだった。

その夜、藤ヶ瀬に誘われた。

「人目につくのは今はマズイから会いたくないです。」

華乃は健のためにも藤ヶ瀬のためにも
そして何より自分のためにも2人と距離を置くべきだと思った。

「じゃあ、お前の家に行く。」

「え?」

「9時頃行くから家に居てくれ。」

華乃は今、藤ヶ瀬に会う自信が無い。

逢ったらまた気持ちが揺れてしまうだろう。

こんなとき、渉がいればといつも思う。

渉はあの事件で越してしまい、仕事も変わり、
華乃の住む街から電車で8駅も先の街にいる。

ちゃんと通院してるのか時々心配になったが
それでもなかなか逢いには行けなかった。

渉とは不思議な関係だったが、華乃が藤ヶ瀬に逢うまでずっと好きだった渉は華乃にとって特別な存在だ。

そんな渉が華乃を傷つけて、苦しんでいる姿を思い出すと華乃も逢うのは辛かった。

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