One Night Lover
新たな道を行くハズが…
華乃はその日の夜、部屋に戻った。

渉には送ってもらわなかった。

引き止めてしまいそうで渉を困らせると思ったからだ。

真っ暗な部屋は少し肌寒くて、
華乃は牛乳を温めてその中にコーヒー用のシュガーを入れた。

一息ついて、シャワーを浴びようと立ち上がると
誰かが訪ねてきた。

藤ヶ瀬かと思って恐る恐るカメラを確かめると
ドアの向こうに立っていたのは健だった。

「開けろよ。居るんだろ?」

華乃は健に腹を立てていたが、
ドアの前で大騒ぎされても困るので仕方なく健を部屋に入れた。

「異動させられるって本当に?」

「健のせいでしょ?

健が藤ヶ瀬部長を殴ったりしたから…
変な噂が立って…私が飛ばされる事になったんだよ?

2回も健のせいで飛ばされるなんて、思ってもみなかった。」

健は怒ってる華乃を無理やり抱きしめた。

「やっぱりダメだよ。華乃は俺と結婚しないと…

このまま破棄にしたら藤ヶ瀬とのこともっと疑われる。」

華乃は目の前の健が憎らしかった。

全てがこの男のせいだと思えて不満は一気に爆発した。

「疑われたって別にいい。

事実じゃないし…それに不倫でもないのに何がいけないの?

健とのことだってそう。

結婚するだけで夢だった文具のデザイナーになれなくなった。

全部健のせいでしょ?」

「華乃…俺、知り合いのデザイナーさんに頼んでやろうか?」

この上から目線が昔から嫌だった。

健はいつも偉そうで、華乃をいつも自分の枠に押し込めようとする。

「とにかく健と結婚はしない!

藤ヶ瀬部長とも何でもない!

もうあんな会社行く気もない!」

華乃の中は今、劣等感でいっぱいで
勝ち組の健と一緒にいるのは辛かった。

上司を殴っても給料を少しの間減らされるだけで
今のポジションが変わらない健と
噂が立っただけで場所を追われる自分との差を今の華乃はとてもじゃないが受け入れられなかった。



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