One Night Lover
欲動
その日のうちに総務課長から話があった。

「辞表の事だけど…
藤ヶ瀬部長と話しはしましたか?

こっちに藤ヶ瀬さんから連絡があって…
とりあえずもう少し待ってもらえませんか?」

華乃は課長から辞表を戻された。

「藤ヶ瀬さんが何とかするって言ってたから
少し待ってみた方がいいと思います。

池田さんもたかが噂で異動させられて不本意でしょう?」

今はたかが噂だが、それが現実味を帯びて来た。

華乃はもう既に藤ヶ瀬に堕ちている。

でも流されるのも嫌だ。

このまま前のような中途半端な自分には戻りたくなかった。

雨来梨沙の下で働く夢もまだ捨てたくない。

その夜、華乃は藤ヶ瀬に食事に誘われた。

「ちゃんと話をしたい。」

そう言われて胸が高鳴ったが、
今の華乃と藤ヶ瀬は噂のマトで社内の人間に見られたくなかった。

「今は逢っちゃいけないと思います。」

「不倫じゃあるまいし…もう同じ部署でもない。
気にすること無いと思うが…」

でも健と婚約していた華乃にとって
破談してすぐ他の男に乗り換えたと言われるのは好ましくなかった。

「じゃあウチに来るか?

それともお前のウチに?」

「え?」

それが1番噂がたたないとは思えたが、別の意味で危険である。

まだ密室で2人で逢う準備が華乃には出来ていなかった。



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