お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「藤野さんはご結婚されるんですよね?仕事はこのまま続けるんですか?」
廊下を歩きながらふと投げられた言葉に声が詰まる。
『結婚』も約束だけで何もきまっていないのだから、その後の仕事のことも話し合っていない。
本当はどうすべきなのか道筋はできているのだけれど、どうしても諦めきれない自分もいるから気持ちの折り合いをつけようと智哉がいない時間に考えていたことだった。
「葉山智哉さん。どこかで見た顔だと思ったら、あとで『葉山酒造』のご子息って思い出して驚きました」
「知ってたの?」
「一年ほど前に知人のパーティで見かけて」
パーティー。さすが社長令嬢。
小さくても老舗の化粧品会社だ。彼らの中では小さな時から社交界に繰り出すことがあるのだろう。
自営の小さな呉服屋とはわけが違う。
「知ってるかもしれませんけど、彼、私の幼馴染とお見合いの話があるらしいですよ」
……え?
驚きで声が出なかった。
ただ、ありさを見つめると彼女は、しまったという顔をした。
「家同士の付き合いみたいですけど、でも、藤野さんがいるなら流れますね」
早口で言い切って、この話を終わらせようとする。
だけど、私はその手を掴んでいた。
「そ、その話詳しく聞かせて」