今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士はベッドに仰向けに横たわっている。
しかし、琴から顔を背けるように、首を捻って逆側を向いてしまった。


ベッドサイドに置いたライトの橙色の明かりと、ストーヴの炎だけに照らされた寝室は、二人の人間がいるとは思えないくらい、しんと静まり返っている。


琴だけでなく、総士の呼吸音も聞こえない。
やはり琴を警戒して、眠りに落ちることを抗っているのだろう。


(私がここにいる間は、頑として寝ないつもりなのかもしれない。それなら、私が付き添っていては、総士さんの身体に障る、けど……)


ここで折れて自室に戻ってしまっては、元も子もない。
眠ってほしいと祈りながら、琴はこちらに向けられた彼の首筋を見つめた。


そうして、どのくらい経った頃か。


「……琴」


総士が、ピクリとも動かないまま、探るように名を呼んだ。
その潜めた声色に、琴はドキリとしながら「はい」と短い返事をする。


「なぜ、今夜に限って、そんなに頑固なんだ?」


呼びかけに続いた質問に、琴は黙って首を傾げる。


「なぜ、俺の妻だと言い張った? ……それで、『不貞など働いていない』と身の証でもしたつもりか?」


やはり昨夜のことが彼の中でまだ燻っているのだろう。
その皮肉な言い回しに、琴はそっと目を伏せた。
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