幼馴染はイケメンです



(もしもし?茜?下に着いたから)

電話してきたのはすぐ上の兄、航《わたる》

「ありがとう。荷物多いから上がってきてよ」

(あぁ)

二階建てアパートの二階
角部屋が私の部屋

通路の突き当たりだから
うちのドアスコープからは全ての部屋の入口が見える

もちろん京介の部屋も

今は居ないから
安心して出られる


「茜、引っ越しかよ」


玄関に置かれたトランク3つと
クーラーボックスを見て呆れ顔の兄


「夏休みの間戻らないから全部だよ
冷蔵庫も空っぽにしたの」


「茜、初めてだろ?何の予定もない夏休み
幼稚園の時だって俺の遠征に付いて来てたからな」


航兄になら私の気持ちが分かるはず

なぜなら・・・
航兄も怪我でソフトボールを諦めたから


「兄弟そろって怪我に弱いよね~」


わざと明るく振る舞うのに


「茜、泣きながら寝たな?
ビックリする位、目、腫れてんぞ」


肩を揺らして笑ってる


「酷~い。触れちゃダメなとこだよ」


辛い気持ちを紛らわせるように
冗談ばかり言って笑わせてくれる

こういう時は家族に限るね
昨日の肩を落とした京介を思い出した


「京介は?練習か?」


「うん。そのはず」


「あいつ、茜が辞めること何て言ってた?」


「一緒にやってきたのに事後報告したから拗ねてたよ」


「そっか」


玄関上のブレーカーレバーを全てオフにした


京介の部屋の前で“さよなら”だけ呟いて車に大荷物を積み込んだ


家までは車で一時間ほどだった

冷蔵庫のモノを詰め込んだクーラーボックスを母に渡すと部屋に閉じこもった

壁一面に飾られていた選手権大会のパネル達は
キレイサッパリ取り除かれて
あっさりした部屋になっている

帰る前に『外して』と母にお願いしたから今頃物置かな?

これからの約二ヶ月
自分の方向性を見つけるには
うってつけのシンプルな部屋に
少しの違和感を覚えるけれど


「徐々に慣れるよね」


蝉の声を聞きながら
それまで遠ざけていた
女の子らしいことをするのを
目の前の目標にした


毎日母とキッチンに立ち
掃除、洗濯、買い物・・・

家事手伝いって楽しいかも

そんな風に思えるまで
時間は掛からなかった


「お父さん、茜の作った肉じゃがイケるよね」


そんな何でもない会話をしながら


毎日毎日届くソフト部の仲間からの
メールと

京介からのメッセージの返事が出来ない私


「茜、さすが家に引きこもってるから
冬でもないのに肌が白くなったね」


母親譲りの色白さん
そんなフレーズは幼稚園を出た頃に
パッタリ聞かなくなった


「今まで日焼けしてきたから
シミになるかな?」


母のドレッサーの横で聞くと


「そうよね~やっぱ
歳と共に化粧品にもお金かけなきゃダメよ」


しみじみとスキンケアに勤しむ母の
その言葉をキッカケに
近くに出来たドラッグストアへと出かけることにした


コスメコーナーには
同級生の日下部恵が働いている

お互いの近況を報告し合い
日焼け止め以外持ってなかった私は

彼女オススメの化粧品を買った


「茜、髪も少し巻いたら?
ストレートもキレイだけど
顔が変わるなら全部変えようよ」

髪の巻き方から
まとめ髪のアレンジにいたるまで
恵のレクチャーで
あっという間に大変身

「私じゃないみたい」

鏡に映る自分は
ユニフォームの殻を破った

唇プルルンの見事なまでの女子大生


「ところでさ、京介とはどうなったの?」


不意に聞かれて固まった


「どうなったもなにも
ただのお隣さんだよ?」


「えーーっっ茜!
あんた京介が、ずっとあんたのこと好きなの気づいてないの?」


・・・・・・は?


「・・・嘘、だね」


京介が私を好き?そんな訳ないじゃん


「あちゃー、気づいてないわけ?
これは重症!同級生みんな知ってるよ?」


「・・・まじ?」


「気づいてないのは茜だけだよ
まじ、京介可哀想〜」


恵の呆れ顔にこれが本当の話だと理解した


でも今の今まで
京介を男として見たことなんてなかったんだもの


・・・あいつの顔まともに見れないかも


そう思ってはみたものの

離れてしまった距離は相手を意識せずに済み

いつしか忘れていた
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