きみに初恋メランコリー
──ガララ。

ちょっぴり立て付けの悪い引き戸を開けると、室内にこもっていた生ぬるい空気が頬を撫でた。

ぽかぽかとした太陽の光が窓から射し込んで、室内を明るく照らしている。

わたしは後ろ手にドアをぴったり閉め、そのまま部屋の奥へと進んだ。

そこにあるのは、見慣れた黒いグランドピアノ。

それに触れながら、わたしは自然と、口元に笑みを浮かべた。


朝にしおちゃんとの会話に出てきた“例の場所”とは、校内の片隅にあるこの空き教室のことだ。

授業などでも使われることのないここは、今では物置のような扱いになっているらしい。

何年か前までは使われていた古いピアノも、音楽室に新しいピアノがやって来たことで行き場をなくし、この場所にたどり着いた。

偶然それを知ったわたしは、それ以来ときどき先生に頼んでは、ここのピアノを使わせてもらっているんだ。



「今日は、何を弾こっかなー……」



鍵盤を隠していた黒い蓋を押し上げながら、無意識に言葉が漏れた。

いくら古いものでも、ちゃんと調律はされているらしい。空き教室に追いやられている今も、このピアノは問題なく弾ける。



「……よし」



椅子の高さも確認し、また小さくつぶやいた。

鍵盤に、そっと両手を置く。

──今日は、あの曲を弾こう。
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