きみに初恋メランコリー
「いったい何事……」



小さくつぶやいたしおちゃんの言葉は、もう耳に入らなかった。

やはりというべきか、明らかにわたしの前で立ち止まったその男子生徒は、わたしよりも頭ひとつ上からこちらを見下ろして、にこりと笑った。



「変わんねぇな。その茶色の、ウェーブがかった髪」

「え……」

「なに、花音、知り合い?」



少しだけ困惑したような、しおちゃんの声がする。

目の前の彼が、硬直するわたしに片手を伸ばして、ためらいもなく髪を一房すくい上げた。

視界の片隅で、しおちゃんがギョッとするのがわかる。



「なっ、アンタ──」

「久しぶり。俺の顔、忘れた?」

「……ッ!!」



笑みを形作る口元から、少しだけ覗く八重歯。

とたん、心の奥底にしまい込んであった、記憶と重なった。

──うつむいて必死に涙を堪えるわたし。囃し立てからかう声。

頭の中に浮かぶのは、決してやさしくはない、思い出。



『──ヘンなかみ!』



ああ、そうだ。

いつも、そう言ってわたしに鋭い眼差しを向けていたのは。



「……刹(せつ)、くん……?」



呆然とつぶやいた、わたしを見下ろして。

彼はまた、楽しげに、微笑んだ。
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