やく束は守もります
* 小学三年 風邪とアイスクリーム



少し色褪せた白い天井に、いつもの癖で9マスの格子を描きかけ、香月は意識的にそれを打ち消し目を閉じた。

家出の翌朝から、香月は熱を出していた。
幼少期はよく高熱を出していたが、それも最近ではめっきり減っていたのに。
当然学校も休んでいる。

もう一度見上げたら、また将棋盤を思い浮かべてしまいそうだったので、窓の方に寝返りを打ってから目を開ける。

薄いカーテン越しの部屋は、昼間なのにずいぶん暗い。
少しだけ頭を上げてカーテンの裾を持ち上げると、白く曇った窓ガラスの向こうで、絶え間なく雪の影がはらはらと落ちている。
重く濃い雲は、香月の部屋だけでなく街全体を暗く沈めていた。

こんなに薄いカーテンでも多少は断熱効果があるようで、パジャマの首元に冷気が入り込んでくる。
ぶるっと震えが走ったので、急いでカーテンを元に戻し、布団を鼻の下まで引っ張り上げた。

身体の節々が痛い。
瞼を閉じていてさえ世界がぐるぐる回る。
鰹出汁のきいたおかゆも、ぬるいスポーツドリンクも気持ち悪くて、ひたすら吐き気に耐える二日間だった。

その間に、梨田とその両親が謝罪に来ていたらしい。
もちろん、〈誘拐〉を真に受けるわけではないけれど、香月が熱を出してしまったために、余計に責任を感じたのだろう。
母との長い押し問答の末、治療費は受け取らなかったけれど、菓子折とたくさんの果物はありがたくいただいた。

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