お見合い相手は無礼で性悪?



人生最悪の日


成人式以来の振袖を着付けて貰った
窮屈だけれどとても華やかに仕上がった姿に気分だけが下がる


『可愛い』


『まだ結婚なんて早すぎる』


そんなお世辞を嫌と云う程聞かされて

約束の時間には
窓から日本庭園のお庭が見える料亭で向かい合って座っていた

形だけ・・・聞かされたのはそんな言葉

気に入らなかったら
断れば良いんたから・・・そうも聞いた

母の言葉だけを頼みの綱にして

終始俯いたまま

ただ時が過ぎてくれるのを
じっと待っていた

並べられたお料理にも手をつけず

ひたすらに、早くお開きになることだけを
呪文のように唱えていたのに


『じゃあ、ここからは若い二人に任せて・・』


余計な話が持ち上がった


そこから全く興味がない苔の生えた石や
綺麗な錦鯉の泳ぐお庭を二人で散歩することになった


・・・嫌だな


思った事が表情に出るタイプの私

きっと隠しようもないほどに違いない


・・・どうか振り返らないで


そう願いながら
あいつの背中より少し後ろを陣取った

ひと通り歩いて戻るつもりが
不意に振り返ったあいつは


『イヤイヤ歩いてるって顔に描いてあるぜ?』


髪をかきあげながら
視線を外して嫌味をぶつけてきた


・・・当たり前じゃない


とは言わない

応戦とばかりに視線を外すと
クスッと笑って無視を決め込んだ

そして・・・
踵を返して戻ろうとした私の背後から


『いいか、これは契約みたいなもんだから、感情は入れるなよ
俺だって百歩譲って婿養子の話を受けるんだからな
お嬢様もそれなりの覚悟をしてくれないと・・』


ため息混じりの低い声が聞こえてきた


『・・・っ』


契約?感情を入れるな?
一体何を言うの?

死刑宣告のようなそれは、背中にズシリと重い石をぶつけられたみたいで

脚が動かせなくなった

振り返りもせず背中を向けたままの私を
追い越して先に部屋に戻って行くあいつを視界に入れながら


泣かないように舌の先を噛む


哀しいという感情より

思考回路が止まると同時に呼吸も止まりそうだった






< 14 / 51 >

この作品をシェア

pagetop