お見合い相手は無礼で性悪?



『ピアノレッスン?
私、自宅レッスンだったのよ?』


辿る記憶に架かる橋はない

それでも・・・
子供の頃から前髪をピンで留めて
オデコ全開のポンパドールスタイル

巻き髪のロングヘアーも
今と少しも変わらない私の定番を知っているということが引っかかる


『自宅レッスンになる前は通ってただろ?
君の後の時間帯が僕だった』


ポツリ、ポツリと話す口元が
少し笑っていて

昔を懐かしんでいるように見えた


『ごめんなさいね、沢山習い事してたから
記憶に残ってないの』


申し訳ないと思ったのに


『興味がないから記憶にないのさ』


バッサリ切られて少し落ち込む


『君の最後のレッスンの日
少し早く着いて待っていたのに、君はなかなか出て来なくてさ
文句を言ってやろうとしたのに、出てきた君は「ごきげんよう」って涼しい顔をした
だから無性に腹が立ってさ』


そこまで言うと彼は声を上げて笑い始めた


『なに?なにが可笑しいの?』


目尻の涙を拭う仕草を見ながら
答えを待つ私に聞こえたのは


『腹が立ったから、その全開のオデコにデコピンしたのさ』


破顔した顔と更に大きな笑い声だった


『・・・え』


デコピン?そんな酷いことをされたのに
なんの記憶にも残ってないなんて・・・

自分の興味の無さにため息

そして・・・

図らずも婚約破棄を言い渡した彼と
違和感なく過ごせてることが不思議で

なんだか笑ってしまった


『君の勝手な誤解も解けたことだし
これで予定通り?』


前髪の隙間から覗く瞳と視線が絡んだ途端に
また騒々しく高鳴り始めた鼓動

そのどれをとっても
この人を意識していることに繋がる


負けを認めるように頷くと


『耳まで赤くして
処女だってバレバレだぞ?』


ハハハっと歯を見せて笑った彼に


またひとつ



胸が高鳴った









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