END OF THE WORLD
「貴方が迷うと下は動けなくなる。私も然り。
…私の手を取ったことを後悔されたら、どうしていいか、分からなくなります。」
眉を潜ませて振り絞るように笑う彼女の背中に、そっと手を回した。
嫌がられるわけでもなく直に触れるお互いの体温に生を感じる。
…暖かい。
失いたくないと、思う。
「俺は君が大事だ。
これからもそばに居て欲しいと思う。だが、あんまり無茶はしないでくれ」
「……何をビビっておいでですか、国軍指揮官様」
首に触れる彼女の艶やかな黒髪がくすぐったか感じるくらい、距離は近しい。しかし何故だろう、彼女が自分を敬称で呼ぶ度に離れて行く感覚に襲われるのだ。
「私はまだ死ねません」
「……彼の奴のため、か?」
「え?」
----優しく触れていたアベルの右手が背中をなぞった瞬間だった。
ゾッとするような殺気に襲われたのは。
「----っ誰だ」
アベルは咄嗟にシロを背中に庇うように、棚上に置いていた短剣を前にかざす。
タオルで体を隠しながら、シロも緊張感を持って周りを見渡した。
ぼんやりとした湯気の向こう、目の前に、フードを被った男が姿をゆったりと現す。
鋭い銀の眼光、銀色の髪。
…この王宮の者はではない、見知らぬ顔をした男だった。
「はじめまして、国軍指揮官殿。女性との幸せな時間中に失礼致します」
「…全くだ。よく見ろ、装備もつけてないタオル一枚の男女の前だぞ」
「…アベル様、ふざけないでください」
「このような無礼をお許しください。しかしこちらは今回争いに来たわけではないのです」
「まずは名乗ることから先ではないのか、この無礼者」
挑発するように言葉を投げかけた相手は、妖しい笑みを崩さずその場にひざまづいた。
「改めまして、指揮官殿。
ビーゼロと申します。国属ではございません。…言うならば二国に不幸をもたらす者、とでも言っておきましょうか」
不幸。
得体の知れない目の前の存在に、二人は警戒を強めた。
「"我ら"は不幸を司り、死へと民を誘う者。
本日は警告までにこの場をお借りし致しました」
「警告…?」