スイート・メモリー
 翌日、出勤してきた受付ブースに座る美来と里沙さんは、
 いつも以上に目が爛々と輝いている。

 嫌な予感しかしない。

「美来ちゃん、必ず藤井さんを見つけて、捕まえるのよ」

「先輩、任せておいて下さい」

 毎日、何千人もの従業員が出入りする本社ビル。
 その中から、たった一人を見つけ出すことなんて、本当に出来るのかな、
 しかも、私の初恋の人、本人だと、確定しているわけでもないのに。
 
 なんて思っていた矢先、目の前に、写真からそのまま抜けだして、
 大きくなったような、男の人が姿を現した。

 その瞬間、里沙さんと美来がは、スッと立ち上がる。

「営業三課の、藤井将樹さんでいらっしゃいますか?」

 完璧な営業スマイル。美人受付嬢の、鏡のような二人だ。

「えぇ、はい」

 そう呼ばれた男性は、受付ブースに歩み寄る。

「なにか、呼ばれましたか?」

「失礼いたします。こちらのお写真に、見覚えはございませんか?」

 先輩受付嬢、里沙さんの仕事っぷりは、社内でもとても評判がいい。
 差し出された写真を、彼は目をまん丸にして見つめた。

「これは……」

 手にした写真と私を見比べて、藤井さんは、何度も視線を行き来させる。

「あ……」

 藤井さんの顔が、真っ赤になるから、私まで真っ赤になってしまって、
 もうこれ以上顔が上がらない。

 当たりだ。

「あの、このお写真の件につきまして、私たち三人で、お話がしたいのですが」

 里沙先輩が、私の左腕に抱きつく。

「よろしければ、今週末にでも、お友達と一緒に、いかがですか?」

 美来は右腕。これでは、完全に合コンのお誘いだ。

「分かりました。いいですよ」

 そう言って、彼は受け取った写真を内ポケットにしまい込んだ。

「十分後に、社内電話で僕の所に電話してきて下さい。
 その時に、連絡先をお伝えします」

 藤井さんにしてみれば、歴代受付嬢の中でも、美人と名高い里沙さんと美来に誘われれば、
 断る理由もない。

 立ち去る背中が見なくなってから、美来と里沙さんは、がっつりハイタッチをした。

「やりましたね」

「これは、私利私欲を満たす、品のない行為ではありませんわよ。
 かわいい後輩のために、一役勤めさせていただいただけですからね」

「えぇ、もちろんです。私の大切な、同僚のためですから」

「合コンしたいだけじゃないですか!」

「あはは、奈々ちゃん、ちゃんとかわいい格好してくるんだよ」

 その日は、すぐにやってきた。

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