契約結婚なのに、凄腕ドクターに独占欲剥き出しで愛し抜かれました
事務室に着くとすぐに栄養指導の準備が始まる。

午前中に一件、栄養指導が入っているのだ。

9時半の予約、慢性糸球体腎炎の患者さん。

45歳男性。175cm 80kg 

はあっとため息をついたら、隣のデスクの小沼さんがパソコン画面を覗き込んだ。

「…あー、かわいそうですよねえ慢性腎炎って。
本人が悪いわけじゃないんですもんね」

「完治はしないのに食事制限をしろだなんて…心が痛みますよね」

慢性腎炎の原因は、患者自身の不摂生によるものではないと言われている。

詳しい原因は解明されていないようだけど、患者さんにとっては寝耳に水の話。

慢性ゆえに完治はしないし、どんどん機能が悪くなっていずれ透析になる可能性だってある。

憂鬱な気持ちになりながら、紙カルテのファイルと指導記録の用紙を持って栄養指導室へ向かった。

「春田さーん」

待合室に向かって呼びかけたら、貧乏ゆすりをして腕を組んでいる男性が睨むようにこっちを見た。

…ああ、ちょっと苦手な感じだな。

主治医に言われて仕方なく栄養指導を受けにきたという患者は時々いる。

この人もそういうタイプなのかもしれない。



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