契約結婚なのに、凄腕ドクターに独占欲剥き出しで愛し抜かれました
この前の春田さんの件で早退したばかりなのに申し訳ないけど、急遽半休をもらうことにした。

悠さんは忙しいから、代わりにキヨさんのお見送りに行くことにしたのだ。


葬儀場の前にはたくさんの人が来ていて、キヨさんの人柄がうかがえた。

お線香の匂いはいつも悲しくなる。

お父さんが死んだとき。おばあちゃんが死んだとき…

…そういえばこの辺り、亡くなったおばあちゃんの家があったあたりじゃなかったかな。

もう家は取り壊されてしまったはずだけど。

小学生の時、一度だけ、長野からひとりでおばあちゃんの家に遊びに行ったことがある。

その時私は迷子になってしまって…


『迷子になるなよ』


…あれ?

一瞬何かを思い出しかけた。

だけど、それはまたすぐもやがかかって見失ってしまった。


長いクラクションの音を立てて葬儀場をあとにする車を見ながら、私は数珠を手に掛け、手を合わせた。

キヨさんが、安らかに眠れますように。



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