いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


「ちょ、美波!」


大地君が慌てて隣に座る美波ちゃんの腕を引く。


「なに? さーちゃんならいいでしょ」

「でも、兄さんは話してないかもしれないし」


オロオロする大地君に対し、美波ちゃんはあっけらかんと「あ、そっか」と口にした。


「さーちゃん知ってた?」

「詳しくは知らなかったかな」


私の方が苦笑いして言うと、美波ちゃんはしまったという顔をする。


「じゃああとで兄さんには謝っておかなきゃ」


ダメじゃないかと大地君が美波ちゃんを叱るのを眺めながら、私は一人納得していた。

きっと、東條社長はいち君が幼い頃からから不倫をしていたのだろう。

それが原因で、いち君のお母さんは泣いていた。

いち君は昔から愛情深い人だから、家族を傷つける父親を許せずにいるのだ、と。

それにしても、不倫か。

今は奥さんがいないわけだから不倫にはならないだろうけど、いち君たちからしたらずっと裏切られているような感覚なのかもしれない。


人は誰しも欲望という獣を心の内に飼っていると思う。

それを理性という手綱で繋ぎ、うっかり飛び出してしまわないように制御しているのだ。

けれど、東條社長は何かのきっかけで手綱を離してしまった。

そして、それを放し飼いにし続けた結果、家族を傷つけた。


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