いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


「東條様、お部屋の方へどうぞ」

「ありがとうございます、マスター。料理は今日もオススメのもので任せていいですか?」

「かしこまりました」


どうやら彼はここのマスターらしい。

マスターは目元の皺を深めて微笑むと、個室の扉を開けて通してくれる。

賑やかなお客さんの声が僅かに遠去かり、私たちはこの字型に設置されているソファーシートに腰を下ろすと、それぞれお酒をオーダーした。

私は白いオフショルブラウスの肩の位置を直し、ふと思ったことを口にする。


「いち君て、敬語使うよね」

「ん?」

「家族とか親しい人にはくだけるけど、職場でも部下に敬語使ってるでしょ? さっき、運転手さんにも敬語だったし」


昔はどんな友達にも普通に話していたはずだ。

中学の時も、先輩や先生等、目上の人にしか使っていなかったと記憶している。

もう学生ではないし、社会に出れば敬語で接する機会は多い。

でも、私の知っている限り、職場の先輩や上司たちは下のものにはあまり敬語を使わない。

けれどいち君は、企画部の人たち全てに敬語を使っていた。

元々物腰が柔らかい人だから自然なように見えるけど、疲れないのかなと少し不思議に思っていたのだ。

まあ、余計なお世話かもしれないけれど。

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