恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!


 杏奈は俺の我が儘を何も言わずに聞いてくれた。


 きっと怖がらせてしまった……
 そんなことがしたかったわけじゃない。
 ただ、夜が明けるまで杏奈の息吹を感じていたかっただけなんだ。

 「君の存在がこんなに大きくなっていたなんてな……」

 眠っている杏奈の髪をそっと手に取って小さく呟く。

 安心しきったように眠る彼女が愛おしい。毎日早起くから起きて朝食の準備とアンジュの散歩に精を出している。その姿はとても一生懸命だ。何事にも真剣に一生懸命取り組むその姿勢は、彼女らしい。でもあんまりにも真面目にこなして行く様子は『仕事』のようで、時々胸が苦しくなる。彼女にとってそれらの行為は俺が怪我をしてしまったことへの『罪悪感』から来る『使命感』なんだろう。

 その一生懸命が『俺の為』ならいいのに……。

 彼女にここに居て欲しくて、彼女の『罪悪感』を利用したはずなのに、それ自体が俺の首をゆっくりと締めていく。
 
 杏奈の閉じた瞳に唇を寄せる。
 触れるか触れないか、ほんの一瞬だけ。

 唇から伝わってくる彼女の肌は滑らかで、もっと味わいたくなる。
 いつも挨拶代わりに額にするキスですら、もっと触れたくなるのを堪えるのに必死になるのに、こんな風に眠る彼女を抱きしめて、その温もりを感じながらする口づけは麻薬のようだ。もっともっと、と俺を誘惑する。

 俺をこんな風にしてしまう彼女の破壊力にいつまで持ちこたえることができるだろうか。
 俺の足も、もうほとんど良くなっている。杏奈の前では松葉杖を一本だけは使っているけれど、実際は無くても不自由はない。職場にいる時はほぼ使っていないし、外出する仕事の時だけは一応持っては行くが、そろそろそれもいらなくなるだろう。

 この足が完治したら、杏奈はここを出ていくだろう。
 どうしたら彼女を俺の側に置いたままにできるのだろうか。

 そんなことを考えながら、彼女の額に口づけ目を閉じた。
 彼女の温かさに癒されながら『策略』考えているうちに日付が変わる。
 三年ぶりに穏やかな気持ちで誕生日の夜に眠ることが出来た。


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