借金のカタなのに溺愛されてます?



アパートまで後わずかという距離まで近づいた時

車道側で信号待ちをしていた自転車の
前後と車道側の行く手を塞ぐように
黒塗りの車3台が静かに停まった


「え?」


突然のことに自転車のブレーキを握る


左側は街路樹とガードレールで塞がっていて
どう見ても逃げ道は無い


怖過ぎて目だけを動かして
車の中を覗うけれど
スモークガラスのせいで
全く何も見えない


・・・怖い


すぐ右側にピタリと停まった車のドアが開くと
黒いスーツに黒のサングラスをした
いかにもな男が降りてきた


「篠宮陽菜《しのみやひな》さんですね」


開かれた口から聞こえた低い声は
疑問文ではなく


確認の為の強い語気

否定しようとしたのに
馬鹿な私は僅かに頷いてしまった


・・・誘拐?拉致?取り立て?


「・・・・・・え?」


頭を巡るのは悪いことばかり


「一緒に来て頂きます」


返事もしていないのに
自転車と身体を引き剥がされ
気がつくと車に押し込められていた


「騒ぐと可愛い顔に傷がつく」


そう呟くと押し黙った男


ムッとするような
トロピカルな香水が鼻腔を刺激する


「あの・・・」


「・・・」


「あの・・・すみません」



消え入りそうな声で
両脇の男に声を掛けるのに

腕組みをしたまま
呼び掛けに応えることはなかった




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