溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

 控えめに襖がノックされて、揃って我に返る。


「社長、店前のお車のご移動をお願いしたいのですが」
「あぁ、すまない。今すぐ行くよ」

 名残惜しそうにもう一度キスを落とした彼は和室を出て行き、私はひとりで待つ間、姿見の中の自分と対峙する。


 綺麗に纏め上げられた黒髪と扇形のかんざし、首筋に残る彼の唇の感触と……真っ赤だった八神さんの顔がちらついて、ドキドキと脈打つ鼓動が疼いて仕方ない。


 雨の日に初めて見た着物姿の彼は冷酷だったのに、さっきの彼は私を包み込むように抱きしめてくれて。
 それに、かわいいとか色っぽいとか……そんなこと今まで誰にも言われたことがないから、今になって私の頬が朱色に染まるのを抑えられなくなった。


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