Miseria ～幸せな悲劇～

「そんな……」


暗然とした感情が祐希を支配する。


父、晋吾による暴力は自分にだけだと思っていた。祐人が殴られるところを見たことがなかったからだ。


しかし、その考えは甘かった。


祐人の痣から、おそらく祐希よりもずっと激しいものだっただろう。それも怪我の具合から昨日今日に始まった暴力ではなさそうだった。


しかも、祐人はそれを隠していた。


私は、そんなことも知らずに今まで……


「僕が我慢すれば、いつか優しかった父さんが帰ってきてくれる。そうしたらまた、家族で笑いあえる日がくるから……」


祐人は儚げな表情で言った。祐希を思っての言葉だろうが、祐希は深い絶望感に襲われた。


「バカ、そんなこと……」


祐希は強く祐人を抱き締めた。


「姉ちゃん……？」


祐希は拳を強く握りしめた。


祐希の心には言葉では表せないほどの憎悪がたちこめていた。


許せない。もうあんな人……家族じゃない。


生まれてはじめて祐希は父を心の底から憎んだ。晋吾を家族から否定し、消えてほしいとさえ、祐希は願った。


「大丈夫。祐人は、私が守るから……例え何を犠牲にしても。必ず……」