今の私は一週間前のあなた






修也と交わした


二つ目の約束



もう完璧に忘れてしまっていた



あの頃の修也は優しいのに不器用で
よく笑うのに
強がって泣いた姿は見せてくれなかった


あの時の私には何故かわからなかったけど

今、わかった



修也はあの頃の私が好きだったんだって

真実はわからないけど…
でも、そうならいいなと願う


「…先生、すいません…ペンを持っていませんか?」


「…藍乃さん…」


先生は眉間にしわを寄せて私の手のひらに油性ペンを乗せた


「私は…先生だから。書いちゃダメっていうわよ?」


「…じゃあ、先生は何も見ていない。それでいいですよね」

ダメだと言われても私は書く
まっすぐに先生を見つめた

無茶苦茶なことかもしれないけど。
それでも私は…。


私の瞳をまっすぐに見つめ返した先生は諦めたように笑った


「…仕方ないわねぇ」


先生はそれだけ言ってくるりと振り返って私に背を向けた


『先生はなにも見ていない』

本当にその通りにする先生が何だか愛しい

ダメなこととわかっていても
それでも子供を愛している
それは、私たちにも向けられている愛

今になって先生の微笑みからはそれが伝わって来る
昔はわからなかったこと




私はペンのキャップをとって頭の上に線を引いた


線の高さはやっぱりあの時よりも明らかに高くて
自分が大きくなったこと、
時間が過ぎてきたこと、それがわかった




「…しゅうやは…」

私は腕を伸ばしてペンに軽く力を入れて
記憶にある高さに線を引いた


「この辺、かな」



柱を見ると四本の線が引かれている

小学五年生の

私と、しゅうや


高校二年生の

私と、修也



もうすでに高校2年の修也には
簡単に背は抜かれていて
あの時の自信は木っ端微塵に打ち砕かれていた

それでもなんだか嬉しくて






そして、








今、あなたが隣にいないことが悲しかった
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