桃色吐息
メアドを交換した夜から、エイジ君はたまにメールをくれるようになった。

たいていほんの一行ぐらいの挨拶程度の内容。


”試しに送ってみる、これからもよろしくな。”

初めはそんな感じだった。



返事を返すのには、いつも悩んでしまう。
ビトに返すのとはわけが違うから、なんだか気を使うっていうかなんていうか。

きっと普通におしゃべりするように打てばいいんだけれど、文章は記録に残るからなぁ。



平日の午前中、学校に行っているときも、休み時間に携帯を開くとたまにメールが来ている。
ビトよりまめにメールをくれるのが、なんだか不思議だった。

ああきっと、普通の男の子と付き合うと、もっと頻繁に送ってくるものなのかな?

今日もそんな感じで、「今夜は何してる?」なんてメッセージが送られてきていた。


「桃ちゃん、彼氏からのメール?」

クラスメイトの淑子ちゃんがそういって私の携帯をのぞくので、思わず隠してしまった。

「え、違うよ、違う学校の友達だよ。」

隠して妖しいナァなんて笑うけど、私も適当に笑ってごまかした。



「淑子ちゃんとこの彼氏は、よくメールとかくれる?」

逆に私はそう聞いてみたら、しょっちゅうくるよー当たり前じゃんって言われる。


「即レスしないとヤキモチ妬くし、こっちも既読スルーされたりすると喧嘩になるもん。」


やっぱりみんなそんな感じなんだなあ・・・

うちのビトは、一日中忙しいから、メッセージくれるのって夜遅い時間とかだし、私も決まって寝る前くらいに一度送るくらいだもの。


私は、窓の外を何を見るわけでもなく眺めると、ひとつ深い溜息をついた。



「そんな溜息ばっかりついてると、幸せが逃げちゃうよ。」

淑子ちゃんはそんな風に言って私を元気付けてくれるけど、私の彼氏がどういう人かは知らないんだ。

ただ、ずっと昔からの幼馴染だとだけ言ってあるだけ。


「私ももっと、普通の彼氏が欲しいなあ・・・」

でも普通って何だろう?



「桃ちゃんの彼氏は、普通じゃないの?仲良さそうな気がしてたけど。」


「うん、仲はいいけどね、たまにうちに遊びに来てくれるくらいで、あんまり会えないしね・・・」

そんな風にぼやいてしまう。それが、中学までの辛い日々に比べたら、どんなにいいかなんて忘れてるんだ。



「やっぱり、外でデートとかできないって、辛いよね~」


そんな風に話しているうちに、あっという間に休み時間が終わって結局エイジ君にはメールの返事は出せないままになっていた。
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