君の背中に見えた輝く翼に、私は恋に落ちました
最近、クラス委員の仕事が

以前にもまして、増えた気がする。

今日も、わたしと桐生くんは

4限目の授業後…

提出物を持って、目的の

化学準備室まで、2人で歩く…

わたしの少し先を歩く、

桐生くんの背中を見つめる。

告白を断ってから、

気まずくなるかと思っていたけど、

桐生くんは、以前と変わらない。

優しくて、わたしを見る瞳は、

とても穏やかで…

それが、わたしを

安心させてくれる。

同時に、切なくもさせる…

言葉にできないのが、

苦しくて、もどかしい。

自分で突き放したくせに、

こうして未練がましく、

【好き】という気持ちを

消せずに、目で追ってしまう。

何してるんだろうな、わたしは。

「はあ……」

思わず出た溜め息に、

桐生くんが振り返る。

「デカイ溜め息だな、

なんかあった?」

クスッと笑った桐生くんの

優しい声と、穏やかな温度を

持った瞳に、わたしの

心臓が激しく音を立てて、

反応してしまう。

「う、ううん…なんでも」

抱えた提出物を持つ手に

力がこもる。

わたしは、動揺に

気づかれないように

笑顔を向けて、桐生くんを

追い越して歩く。

そして、たどり着いた準備室の

机の上に提出物を置いた。

窓から入ってくる

生暖かい風が、レースのカーテンを

ふわりとなびかせている。

窓際に向かい、わたしは思った。

今、この胸にある気持ちを

伝えることができたら、

どれだけいいだろう…

想うだけでいいなんて、

そんなの…本当は…嘘。

その瞳の中に

わたしだけを映して欲しい。

一緒にいたい。

あの大きくて温かい手に、

腕に包まれたいって思ってる。

手を伸ばせば届く距離なのに、

わたしは、それができない。

もっともらしい理由で

断って、突き放した…

でも、本当は…

ただ、自分に自信がないだけ。

大切にされる価値が

自分にはない気がして…

親に捨てられたのは、

わたしは大切にされる価値のない

人間だって言われてる気がして。

「春瀬は嘘が下手だな。

思ってることが、すぐに顔に出る。

楽しい時も、悲しい時も…

いつでも素直だ。

そういうところが、俺は好きだ」

え……?

ゆっくり振り返った

わたしを真っ直ぐ見つめる

桐生くん。

好きって…

断って、突き放して

嫌な態度をたくさんとったのに、

どうして?

「やっぱり、顔にでてんな。

どうして?って顔してる」と、

眉を少しだけ下げて

桐生くんは、優しく笑った。



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