君の背中に見えた輝く翼に、私は恋に落ちました
好きになってもらえる幸せ
いよいよ今日は

桐生くんのデビュー戦!

公式の試合ではないけど

わたし達、桜ノ宮高校の

ライバル校と言われている

星崎高校。

相模先輩から聞いた話だけど

代々、うちの高校とは

公式戦や全国大会をかけた

大きな試合で、必ず当たり

力は五分五分らしい。

同じ県内ということもあって

全国大会に駒を進めるには

星崎高校には絶対に

勝たなくてはならないとのこと。

ライバル校でありながら

こうして練習試合をするのは

監督同士で交流があるからみたい。

バスケ部専用のバスに

乗り込んで30分…

海が綺麗で、陽の光を受けて

水面がキラキラとしている光景が

とても印象的。

窓から見えるその光景に

見入っているうちに、星崎高校に

到着した。

星崎のキャプテンを務める

吉良さんが、笑顔で迎えてくれた。

バスを降りて、わたしと璃子も

挨拶をしたけれど、

とても気さくで明るい人だ。

「今日はよろしくお願いします。

マネージャーの春瀬です」

「同じくマネージャーの香月です」

わたし達をじっと見つめて

なぜか頬を染める吉良さん。

「えっと…どうかされましたか?」

璃子が尋ねると…

「いやー…うちは男子校だから

校内に女の子が居るのは

変な感じでね!」

頭をポリポリかきながら

照れ臭そうに笑う姿に

クスッと笑みがこぼれた。

「そうなんですか?

でも、あたしもも変な感じがします。

うちは共学なので」

そんな他愛ない世間話をしたあと

バスケ部のある体育館へ

みんなで、ぞろぞろと歩く。

隣を歩く桐生くんは

相変わらず表情が読めないけど

瞳には力が入っているように

見えた。

「応援してるね!」

「おう」

そう言って、頭を撫でる

桐生くんの瞳が

柔らかな弧を描く。

この笑顔、好きだな…

そう思いながら、

わたしも精一杯の笑顔で頷いた。

体育館に着いた、みんなは

ウォーミングアップを始めた。

それをサポートするべく

いつもと同じように

わたし達マネージャーは

コート半面をバタバタと

走り回っていた。

コツッ…

足元にボールが当たって

どっちのコートから転がって

きたのかと、キョロキョロ。

そして、わたしに向かって

手を挙げているのは…

10番のユニフォームを身に付けた

星崎高校の男の子だった。

「すみません!それ、俺のボール」

桐生くんより、少し背の低い

その人は、笑顔で駆け寄ってくる。

「はい、どうぞ!」

笑顔で返すと、その子は

マジマジと、わたしを見つめて

固まっている。

「あの…なにか?」

わたしの言葉が聞こえていないのか

ピクリとも動かない…

その人の顔の前で、

手を振ってみた。

大丈夫かな?この人…

顔を覗き込むと、

「お、俺…箕輪大地!

君は?名前、なんていうの?」

薄っすら頬を染めて

突然の自己紹介をする箕輪くん。

吉良さんと同様の顔をする

箕輪くんも、きっと女の子がいる

この環境が落ち着かないのかな?

「1年の春瀬流羽です。

今日はよろしくお願いします」

ペコっと頭を下げると…

箕輪くんは、口をパクパクさせて

みるみる顔が真っ赤になっていく。

「あの、大丈夫ですか?」

首を傾げながら、尋ねると

持っていたボールを落とした。

トントントンッ……

「あっ…ボールが!」

追いかけようとする、わたしの

手首を誰かが掴んだ。

えっ?

振り返ると、そこにいたのは

桐生くん。

「あっ、桐生くん!どうしたの?」

ウォーミングアップした後だからか、

桐生くんの手は、とっても熱い。

見上げると、どことなく

不機嫌なオーラが…

どうしたのかなぁ?

「あいつと、何…話してたんだ?」

あいつ…と言って、桐生くんが

親指で指す先にいるのは、

さっき自己紹介した、箕輪くんで

わたしと桐生くんを交互に

見て立ち尽くしている。

「あのね、向こうのコートから

転がってきたボールを渡したら、

名前聞かれて。それ」

それだけだよと言おうとしたけど、

わたしの言葉にかぶせるように

桐生くんが遮った。

手首を掴んでいた手が離れて、

手を握り直す桐生くん。

「あんま、俺から離れんな。

春瀬は自覚なさすぎ」

「うん、離れないよ。

でも…自覚なさすぎって?」

マネージャーの自覚ってことかな?

そういえば、箕輪くんにボール

返してから、少し仕事ストップ

しちゃってたんもんね…

練習試合とはいえ、今日は

桐生くんにとっては、高校初めての

試合だもんね。

1人でふむふむと考えていると、

いきなり、デコピンをされて

思考が停止する。

「い、痛い…」

おでこをさすりながら、見上げると

桐生くんは大きく溜め息をついて…

「自分が可愛いってことをだよ。

無自覚だから、目が離せねぇ」

へっ!?

可愛い!?

桐生くんから言われた言葉が

頭の中でぐるぐるしている。

「自覚もなにも…

わたし、可愛くなんてないよ…」

こんな何の取り柄もなくて、

高校生らしからぬ…

下手したら、中学生に間違われる

わたしが可愛いなんて、

あり得ないよ!

「そういう無自覚なとこも、

可愛いんだけど…

とにかく、他校の奴に簡単に

名乗るのはやめろよ?

どっかに誘拐でもされそうだから」

「誘拐っ!?

小さい子じゃないんだから…

心配し過ぎだよ!

お菓子くれるって言われても

ついていかないもん!」

プーッと頬を膨らませて

抗議する。

桐生くんは片手で顔を覆って…

「だから…その顔とか

仕草が、可愛すぎなんだよ」

へっ!?

手で覆い隠せていないところが

赤くなってる…

自分で言っておいて

なんで桐生くんが赤くなるのー!

うつっちゃうよ!






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