記憶を失くした少女【完】



「顔が怖いぞ~。ったく、お前は綺羅のことになったら、いつもそうなるんだから。過保護すぎんだよ」


カクテルを一気にグッと飲んだ旭川はカウンターに両腕を置き、俺を向いた状態でうつ伏せた。


「…………昔の綺羅はあぁ見えても、心が繊細だった。家に帰っても誰もいない。それが中学のときからずっとだったんだ。そんな寂しさを紛らわすように、綺羅は軽い付き合いを始め出した。セフレだってそうだ。俺はアイツをこれ以上悲しい思いにさせたくない。傷ついてほしくないんだよ」


溜め込むと爆発するように泣いちゃうような奴なんだ。


他の人には分からないような痛みや苦しみを、綺羅は経験してきた。


正直、俺も記憶が戻ってほしくないって思ってる。


戻ってしまったら、またそんな事を思い出して苦しむから。


だから俺は綺羅の家族のことはもちろん、深入りしたことは言わない。


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