甘い魔法にかけられて
上村柚(うえむらゆず)24歳

短大在学中、学校近くにある小さな文具店
[みどり屋]でアルバイトをしていた

老夫婦が営む文具店へ
買い物に行く度に
「お茶でもいかが?」
そう誘ってくれる奥さんに
不思議と心を開いたのが5年も前のこと・・・

小さな店ながら
小学校と大学の隣という立地のお陰で
店はいつも人で溢れていた

就活が始まると[みどり屋]の奥さんに
「柚ちゃんに合わせたい人がいるの」と
社長さんを紹介して貰ったことがキッカケで
卒業後、文房具卸問屋[正和商事]で働くことになった

あれから・・・

少し埃っぽい空間での
地味なデスクワークに満足している



少しスカート丈の短い
事務服に着替えると

薄手のコートでスッポリ隠して
自転車を走らせる

アパートから一本道の会社
歩いても良さそうな距離を
わざわざ自転車に乗るのは

出勤早々立ちくらみがおこりそうな程の
典型的な運動音痴が災いしている

『お、おはようございま~~す』

倉庫の中で棚を前に
ピッキング作業をする
10数名のパートさん達の背中に挨拶しながら脇をすり抜け

奥まった場所にある事務所へ飛び込む

『ふぅ』

少し乱れた呼吸を整えながら
更衣室のロッカーへ
バッグを押し込むと

一番隅にあるデスクへ

出勤早々
色とりどりの付箋が
デスクに貼られているのが目に飛び込む

それらを確認し優先順位を組み立てながら
デスクの端へ整頓する

急ぎの用件は無さそうなので
ホッとすると
デスクトップパソコンの電源を入れた
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