甘い魔法にかけられて
文具店が閉まるまでの時間を
老夫婦と一緒にカウンターの中で
お手伝いする

「柚ちゃん仕事で疲れてるのにごめんね」

「いいえ、これくらい平気です」

重いパック販売のノート類を平台に並べると
手書きPOPを挟んだ

「柚ちゃんのおかげでPOPに統一感があって本当ありがたいわ」

「年取ると、字まで震えるからお客さんに迷惑がかかるよ」

「私で良ければ、どうせ暇なのでいつでも使って下さい」

この店では笑顔で会話が弾む

私の実家は山間にある小さな町
両親は小学校の頃に相次いで亡くなった

もともと老人の多い町で
小、中学校は複式学級
高校はかろうじて学年別の過疎地
コミュ障になったのもこの頃かもしれない

残された私を一人で育ててくれたのは父方の祖母
その祖母も昨年両親の元へ旅立ち
ついに一人になってしまった

そんな私を娘のように大事にしてくれる老夫婦が大好きで
辞めてからも毎週のように訪れている

根暗過ぎて友達も居ない自分にとっては
友達であり、両親のようであり
学生時代は毎晩ご飯をご馳走になった恩もある

老夫婦の為なら何でもしてあげたいと
思える程居心地の良い空間

夕飯の支度を手伝いながら
いつもと違う私の雰囲気に気付いた奥さんに

「なにかあった?」

顔をのぞき込まれ

「実は・・・」

今日出会ったKYの話が次から次へと溢れてきた
< 9 / 90 >

この作品をシェア

pagetop