ぜんぶクリスマスのせいだ。


コンビニもスーパーも選択肢から消して、あんまりむなしくなくて、なおかつパパっと食べられるもの。頭のなかでぐるぐると考えたとき、いつも出勤前に朝ごはんとして買っていく、行きつけのパン屋のことを思い出した。


たしか今だったら、クリスマス限定のサンタのデコレーションをしたパンがあったはず。
……それで少しはクリスマス気分を味わってみようかな。こうなったらもうやけくそ気味に食べてやろう。店のサンタパンを食べ尽くす勢いで。


そう思い立って、またふらふらとした足取りで帰路とは少し離れたパン屋を目指して進路を変えた。
少し歩くと、すぐにパン屋は見えてきた。行きつけだから間違うはずもない。でもなにかが少し違う。いや、少しどころじゃない。パン屋のなかにいる人物。見間違えかと何度か目をパチパチとまばたきをしてみても、その姿はバッチリと見えた。


からんっと扉についているベルをならして店に入ると、その音に気がついた店員さんが“いらっしゃいませ”と声をかけてくれた。その声とほぼ同時に、店内にいた唯一のお客さんがこちらに視線を向けた。


「こんなところで会うなんてな。どーも千崎」


まさか、このタイミングで、今日この日に、この人に会うなんて。クリスマスに一人でこんなところに来ているのが見つかった。きっとむかつく嫌みを言うに決まってる。
“女が一人でクリスマスの夜にパン屋で夜食か?”とか。

店内にいた唯一の客は、会社の同期で、口も性格も悪い、むかつく三宅洋祐だった。


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