その手が離せなくて
抱き上げられたまま、何も言わずに見つめ合う。

どこか葛藤しているようにも見える、一ノ瀬さんの姿。

それでも、ふっと一度瞳を閉じた後、ゆっくりと開いて私を真っ直ぐに見つめた。


「この先、沢山傷つけてしまうと思う」

「――」

「俺が……既婚者の俺が、こんな事言うのは間違っているって分かってる」

「うん……」

「それでも、側にいてほしい。そう思う俺を、許してほしい」


暗闇が私達を隠してくれる。

許されない、この恋を隠してくれている。


きっと罰があたる。

背徳のこの恋は、長くは続かない。


分かっている。

もう、私達は子供じゃないんだから。

おとぎ話みたいに、綺麗な物語の終わりなんて現実にはない事くらい分かっている。


それでも、側にいたいの。

一番に愛してくれなくていいから。

お願いだから、側にいさせてほしいの。

少しの隙間だけ、私に入る事を許して。



――好き。


そう心の中で誰にも聞こえない様に呟いて、彼の温かさに埋もれながら、強く瞳を閉じた。
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