その手が離せなくて

長い打合せがようやく終わった。

腕時計に目を落とせば、9時をまわっていた。

どうりでお腹が鳴るはずだ。


ゾロゾロとチームの人達と並んで出口まで向かう。

20人程の小さなチームだけど、みんな年もある程度近いせいか、気も合った。

このプロジェクトが終わったらみんなで飲みに行こうよ! なんて言いながら、長いエスカレーターを降りていた、その時。


「あ、一ノ瀬さん!」


隣にいた同じチームの女性がどこかピンク色の声を上げる。

その名前にピクリと反応して、彼女の視線の向こうに顔を向けた。


すると、反対側の登りのエスカレーターから彼がこちらに向かってきているのが見えた。

その瞬間、一気に心臓がドキドキと早鐘を打つ。


「お、一ノ瀬、お疲れ」


すれ違ったみんなが口々にそう言っていく。

声をかけられた彼も、お疲れ様ですと言って、いつもの笑顔を振りまいた。


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