その手が離せなくて

「あ。もうこんな時間だ」


楽しい時を止めたのは、一ノ瀬さんのそんな言葉。

笑顔を固めて時計を見ると、もう日付が変わる少し前だった。


「ごめん、時間大丈夫?」

「私は全然。明日は休みですから」


申し訳なさそうに首を傾げた一ノ瀬さんに、ニッコリと笑う。

問題など、どこにもないように。


どうしても、引き留めたくて。

まだ、一緒にいたくて。

それでも――。


「ここは俺がおごるよ」

「え?」

「付き合ってくれた、お礼。友達にも誤っておいて。さらっちゃって悪かったって」


財布を持って立ち上がった彼は、何の未練もなく私の前から立ち去ろうとしていた。


寂しそうにするわけでもなく。

また、会おうとも言わず。


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