その手が離せなくて

どうしたものか。

止む気配のない空を見つめて、深い溜息を吐き出した。

その時――。


「どうなってるんだろうね。最近の日本は」


突然聞こえた声に、驚いて振り返る。

すると、そこには真っ黒な空を見上げて眉間に皺を寄せる一ノ瀬さんがいた。

真っ黒なコートを風になびかせて、止まない雨を見つめている。

そして。


「また会ったな」


何度目かのフリーズをしていた私に、ふっと微笑みかけて視線を下した彼。

そのビー玉の様な瞳に見つめられて、一瞬にして胸が締め付けられた。


「お、お疲れ様です」

「お疲れ様。今帰り?」

「はい。一ノ瀬さんも?」

「あぁ。まさか雨だとは思ってもみなかったけど」


私も。

小さくそう呟いて、空を見上げた彼に連れられて視線を上に向けた。

その時――。


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