その手が離せなくて
あの雨の夜から何日か経った。

あっという間に過ぎた気がする。

何度も何度も、あの日の夜の事を思い出しては、ニヤニヤと1人気持ち悪い笑みを浮べる日々だった。


連絡先を渡されたけど、私から連絡はしていない。

もちろん送りたい気持ちはあった。

こんな事言ったら乙女か! って思われるだろうけど、どこか恥ずかしかったし、なんて送ればいいか分からなかったから。


それに、どこか晶への後ろめたさもあった。

萌に言われた通り、音信不通の彼氏なんてありえない。って思わないわけじゃないけど。

それでも、5年も一緒に歩んできた人だ。

無下にはできなかった。


それに―――。



「お疲れ様です」


見上げる程のビルのエントランスに足を踏み入れた瞬間、ばったりと会ったのは、あの笑顔。

精悍な顔が、まるで猫の様に無邪気になる。
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