まる さんかく しかく
しかく

アーガイル





「この柄、好きだよね」


テーブルの上に置かれた手帳カバーを指差して、彼は言う。
スーツの胸ポケットから煙草を取り出すのは、仕事の打ち合わせが一段落ついた、という合図。

「マフラーもその柄だよね。飽きないの?」

そんなに菱形に囲まれてて、と言いながら、緑色のパッケージの煙草を一本取り出して彼はくわえた。
そういう自分こそ、煙草はいつも同じ銘柄じゃない。

「混んできましたね。このカフェ、人気なのでうちの雑誌でも今度特集するんですよ」
「へぇ。まあ昼時だしね。何か頼んだら?」

一本の煙草に火を点けてから、彼はメニューの書かれた小さくて可愛いらしい冊子を私にぞんざいに手渡した。

「私、チーズグラタンにします」

そのメニューには目を通さずに、手帳の隣に置いた。

「いつも同じメニューだよね」

……うーむ、よく覚えてるよね。

すみません、と店員さんに手を挙げた彼は、ちゃっかり自分の分のコーヒーのお代わりを頼んだ。

しばらくして、私が頼んだグラタンが運ばれてきて、「使う?」相手はナプキンを目の前に差し出した。

「あ、ありがとうござ……っとと」

受け取ろうとした拍子に手元から離れたナプキンは、風になびいてひらひらと落下。
拾おうとして屈んだときに、足元が目に入った。

「あ。私、今日タイツもこの柄だ」
「君、僕のこと誘惑してるだろ」
「なにを馬鹿な……」

顔を上げて相手を見る。
意味深に片眉を上げてコーヒーをすする、ただの仕事相手。だけど、好きな人。

「うわ、美味しそう! これを食べる私、話し合いがひと段落ついたーってホッとするんですよねぇ。いただきます」

気を取り直してフォークを掴む。
一口分すくって、ふうっと息を吹きかけた。

「あ、なんかすみません。私だけいつも、ついでにランチ済ませちゃって。時間がちょうどいいから、つい……」
「いいんだ。そのためにわざわざこの時間に僕らの打ち合わせをセッティングしてるんだから」

グラタンを受け入れる準備万端の大きな口は、だらしなく開いたまま。
大きく見開いた目には、画面いっぱいに、にっと微笑む相手が映る。

「街でこの柄見ると、君の顔が頭に浮かぶよ」

とんとん、と手帳を指差す。驚いた私はその指先を、ただただ目で追った。

「今度、仕事抜きで会わない?」


fin
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