昨日の夢の続きを話そう



「本当に急なことで申し訳ないんだけど、なんとか澪(みお)に頼めない?」


眉をへの字に下げた麻衣子(まいこ)は、きゅうきゅうとした様子で言った。
あてが外れ、こんなことになってしまって、大層切羽詰まっているようだ。


「え、えーと……」


仕事帰りに行きつけのカフェ・ブルームーンに呼び出され、まさかそんな大役を仰せつかるなんて思ってもみなかった私は言葉に詰まる。


「で、でも……。そういうことなら、協力してくれるプロの方を探して頼んだ方がいいんじゃないかな?」


言ってから、探るようにテーブルの向こうの麻衣子の顔を覗き込むと、彼女の顔は一段と渋くなった。

さっきから私たちの席の周りの空気が重たくて、呼吸をするにも胸が苦しい。


「そうなんだけど……。今からだと探してる時間がないし、それに、」


麻衣子は言いかけて、眉間の皺を深くした。


「今更式場のスタッフさんに、やっぱりダメになっちゃったから代わりのものを準備したい、なんて。頼めなくて……」


今にも泣き出しそうな声だった。

麻衣子は高校の同級生で、付き合いは十年になる。
地味な私とは真逆で、いつも明るくて、元気いっぱいなイメージの彼女には、とても珍しい苦しげな表情だった。


「もう私、どうしていいかわからなくて、頼れるのが澪しかいないの」
「……」


そ、そんなこと言われても……。

泣きたいのはこっちなんだけれど、まさかそんな、限りなく個人的なこと。
十年間、いやそれ以上の長い間、心のなかに仕舞ってきたことを、このタイミングで到底言える訳もなく……。
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