一途な小説家の初恋独占契約
手のひらに、熱が伝わる。
今までされたどのキスよりも、温かく湿って生々しい。

けれど、神聖なキスだった。

「……」

私たちは、無言で見つめ合った。

ジョーのヘーゼルの瞳は、熱を湛えて潤んでいる。
しっかりしないと、引きずり込まれそうな情熱だ。

私の中のジョーは、幼い字を綴ってくれた少年だった。
華奢な外見そのままに、内面も繊細で、守ってあげたくなるような同級生だった。

あるいは、ジョーは紙の中に存在する人だった。
彼の書いたブルーブラックの文字こそが、私の大親友そのものだった。

だったら、今目の前にいるのは……?
私の全身を覆い尽くしてしまう大きな身体に、私を容易く持ち上げてしまうような力を持ち、思わず耳を傾けたくなるような低く美しい声で滑らかに日本語を語り、たった半日で多くの人の目を奪った美しい顔を切なそうに歪めたこの人は……。

いつの間にか、口に当てていた手も畳の上に落ち、私は放心したようにジョーを見上げていた。

肩から落ちた私の髪を、ジョーがそっと払う。

ビクリと身を硬くした私に、ジョーはひっそりと溜め息をつき、ゆっくりと私を抱き寄せた。
頭に頬ずりされる。
そこかしこに降りてくる優しい触れあいがキスなのだとは、さすがにもう分かっていたのに、止めることはできなかった。

ジョーの仕草があまりに優しかったから。

あまりに愛しそうにするものだから、私自身でさえ、止めるのをはばかるほどだった。



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