一途な小説家の初恋独占契約
直島さんの案内で、控え室として用意された部屋に入ると、DVDの販売会社の人たちが待ち構えていた。

ジョーは、来日した直後、清谷書房に来る前に会っていたらしい。
今回の来日は、この会社が招待してくれてのことだった。

「ジョー先生、昨日お写真が出てから、話題になっていますね」
「そうですか」
「今日のイベントも、当初の予想よりも随分マスコミが増えそうです。これで、先生の人気に火がつきますよ」

DVDの会社の人が興奮気味に話しても、ジョーは、あまり気のない返事をしていた。

「先に着替えをしても?」
「ああ、失礼しました」

喋り足らなそうな関係者の人たちが、慌てて部屋を出て行く。

ガーメントバッグからスーツを取り出していた私は、その波に乗り遅れた。
控え室には、二人きりだ。

「ああ、汐璃は待って」

ジョーは、ジャケットを脱いで渡してくる。
反射的に受け取って、ハンガーに掛ける。

それが終わるとジョーは、脱ぎ晒しのシャツを渡してきた。

「はい」
「……ッ!」

もちろん、上半身は裸だ。
咄嗟に視線を逸らしても、張りのある筋肉は目に焼きついてしまった。

ジョーは、クスクス笑いながら、部屋の隅についていたカーテンを引いた。
部屋の一角を区切り、着替えが出来るようになっている。
この部屋は、控え室として使うように元々設計されているらしく、大きな鏡台もついていた。

「……はぁっ」

ジョーの姿が完全に隠れたことを確認すると、溜息が出た。
朝から……ううん、昨日の夜から、心が休まらない。

シャッと勢いよくカーテンが開いた。
振り返った私は、思わず息を呑む。

「どうかな、汐璃」

カフスを止めようとしながら、ジョーが出てくる。

ピッタリとフィットしたホワイトのシャツは清潔感に溢れ、その下に隆々とした筋肉があることを窺わせない。
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