王子様とハナコさんと鼓星


だから、再会なんてしたくなかった。

再会してまた同じような怪我してしまうなんて…手を伸ばして左側の傷にふれる。

また、何年も消えない傷。右の傷も五年で分からなくなったのに…

私の話を聞いて、凛太朗さんは幻滅したかな?赤裸々に話した過去。凛太朗さんはどう思っているの?

何も言わない彼の表情を見上げれば、その瞳に私はうつっていない。分かることは、怒っているという事だけ。


何か言ってよ。じゃないと…泣く立場ではないのに泣いてしまう。

「あの、凛太朗さん」

重苦しい雰囲気に耐えきれなく声を掛けた。でも、凛太朗さんは何も言わない、私を見ない。


幻滅したよね。聡くんとの関係、色んなことを赤裸々に話した。私なら耳を塞ぎたくなるような話し。


喧嘩になって、階段から落ちた事に留めておけば…

「ごめんなさい。引きましたよね。幻滅しましたよね。あの、もし凛太朗さんが離婚とかしたいのなら…」

「離婚するって?それ、本気で言ってるの?」

「だって…」

「もういいよ」

ソファーから立ち上がり、壁に掛けられたコートを見に纏う。

「行くよ」

「え…ど、どこに?」

「いいから、来て」

部屋のドアを開けて出て行く。その背中を追いかけると針谷さんとすれ違った。

驚く針谷さんに目も向かずに出て行く。何を考えているのかわからない。

そして、何故か胸騒ぎがする。凛太朗さんが何を考えているのか分からない。それなのに、根拠のない不安が私を襲った。
< 284 / 325 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop