副社長と秘密の溺愛オフィス
 取引先は担当を副社長を指名してくるところも多く、外からの信頼も厚い。

 彼不在となれば、今の甲斐建設には大きな打撃だ。

 その損失を最大限に抑えなくてはならない。

「一番いいのは、事故の時と同じくらいの衝撃を受けることだ。しかし――命の危険を伴う。一か八かでやるにはリスクが大きすぎる」

 確かに言う通りだ。もし元に戻らなかったら――いや、それ以上に命を落とすような事態になる可能性もある。

「じゃあ、どうすれば――」

――ウーウー

 わたしの言葉は、ベッドサイドに置かれているスマートフォンが震える音で遮られた。

 副社長がさっと手に取ると、一瞬にして顔を歪めた。

「チッ、面倒な奴からかかってきた」

 そう言ったかと思うと「もしもし」と電話に出た。

 しかし今の副社長の声は、わたしの声だ。相手に何か言われたのか、気がついて「コホン」と小さな咳払いをして、仕切り直した。

「もしもし社長――乾でございます。はい、ご無沙汰しております、え? 先週会いましたか?」

 ほんの少しの会話にもかかわらず、ボロが出てきている。

 副社長はわたしの反応を見ながら話をするほうが良いと思ったのか、スピーカーに切り替えて話をすすめた。

 わたしはハラハラしながら、副社長が電話をする様子を見守る。
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