副社長と秘密の溺愛オフィス
「それはまずいだろ」

「わたしもそう思います。でも他に行くところもありませんし」

 当分ホテル暮らしをする? それも考えたけれど、期間がいつまでとは決まっていないのだ。当面はよくてもそのうち、資金面で行きづまる。

 どうしたものかと悩む。

「しかたない。乾、君ここで俺と暮らせ」

「は? え? あの、どういう意味ですか?」

 突拍子もない提案に、思わず目を瞬かせる。

「どうもこうも、その言葉の意味のままだ。なんとか理由をつけてそうするしかないだろ? お互い仕事でもプライベートでもなるべく一緒にいたほうが、トラブルが起きたときに対処しやすい」

「たしかに、おっしゃる通りですけど」

 頭では、副社長の言うことが合理的だとわかる。

 しかしたとえ体が入れ替わっていたとしても、好きな人とひとつ屋根の下というのは、わたしにとってはハードルが高い。

「なにをそんなに渋る必要があるんだ? じゃあ、俺が乾の家で弟と三人で暮らすのか?」

 ぼんやりと想像しただけでも、パニックになる。

「そ、そんなの無理に決まってるじゃないですか!」

「じゃあ、ココでふたりで暮らすの決定な。対外的な理由はまぁ、後から考えるか」

 半ば強引に決められてしまった。だけど他にどうすることもできないのだから、仕方がないのかもしれない。

 前途多難、八方塞がり……にっちもさっちもいかない状況に、わたしはただ流されるしかなかった。
< 40 / 212 >

この作品をシェア

pagetop