クールアンドドライ
 一課の課長に、資料を提出し、確認してもらった。
「うん、これで大丈夫だね。お疲れ様。」
ああ、これで帰れる。

 「お疲れ様でした。お先に失礼します。」
頭を下げて、その場を後にした。

 帰る支度をすまし、フロアを出た。
エレベーターを待っていると、スマホが震えた。
ラインがきたらしい。
何も考えずに、アプリを開く。
‘遅いから送ってく、駐車場で待ってろ’
命令形で、書かれたメッセージが目に映った。

 既読にしてしまったからには、返事を返さなければならない。

 エレベーターに乗り込み、地下の駐車場のボタンを押してから、‘わかりました’とだけ返した。

 駐車場出入り口で待っていると、「待ったか?」と言って課長がそばに来た。
ふるふると首を横に振った。
「そうか。」そう言って、ふわり笑ってくれた。
ふわっと鼓動が跳ねた。
こんなに、優しい顔で笑うんだ。

 
 助手席に乗ってからもなんだか落ち着かない。ここに座るのは、初めてって訳じゃないのに。さっきから、ドキドキする。
考えてみたら、課長と話すのは、キスされて以来、初めてだ。

 でも、課長は、普段通りで、「随分と、忙しそうだな。」と言ってくる。

 「はい、今日で少しは落ち着くと思いますけど。」
ドキドキする鼓動を何とか静めようと、平気な振りをして答えた。
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