クールアンドドライ
 一人暮らしを始めたら、行きつけの飲み屋をつくりたかったのに、気付けば一番通っているのは、ここの定食屋さんだった。
ビールが瓶しか置いてないのが残念だが、それ以外は何の不満もない。
味も値段も、店の雰囲気も。

 吉沢さんといったバーは、店の噂を聞いてしまったから、1人では行きにくい。
そもそもカウンター席がなかったなぁと思い出して行くのを断念した。
そんな事を考えながら、食べてたら、「相変わらず、でけー口開けて食うなぁ。」と、感心したように言われた。

「相変わらず、大きなお世話です。」

「でも、魚の食い方は、上手いな。」

「そう言われたのは、初めてです。うちのお父さん、食べ方とか色々うるさくて・・今思えば、お父さんおかげなんでしょうけど・・・」

 なんで普通に話してんだ!
キスされてから、ずっと混乱してたのに。
いざ、本人を目の前にすると、何も言えなくなる。
ああ情けない!
本当は、どういうつもりなんだ!と、文句の一つも言いたかったのに。

 それから、黙々と食事を終えて店をでた。

 「ご馳走様でした。」
お店の出入り口の端っこで、お礼を言って頭を下げた。
お会計をするときに、少しやりあって、結局奢ってもらった。
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