クールアンドドライ
揺れる境界線
 大丈夫じゃなかった。
エレベーターで一階まで降りてきて、エントランスにいた人物に気付いた時、駆け出してしまいそうになったから。
 でも、その人は、スマホを見つめている。
取り敢えず、足を動かした。
一歩一歩近づく、彼が気付いた。

 堪らなくなって駆け出した。
抱きついた身体を、全身で受け止めてくれる。
背中に回された手が、ポンポンと数回軽く叩いてくる。
それだけで、労ってくれたのがわかる。
ああ、心が満たされてく感じがする。
何だろ、この安心感。
「お疲れ。」そう言われて、顔をあげた。
「課長、待っててくれたんですか?」
少し、体制を整えて言った。
「ああ、ラインが既読にならないから、心配したけど。良かった。」
 
 そう言われて、慌てて鞄の中からスマホを取り出し、確認する。
そこには、私の会えそうにないというメッセージに対して、‘待ってるから、無理するなよ。’というメッセージが返されていた。
「ごめんなさい、気づきませんでした。」
彼が、スマホを見つめていたのは、私が返信しなかったからなのかも、そう思うと申し訳なかった。
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