運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「きみに、運命を感じたこと。……それだけは、紛れもない事実だよ」
……これは、悪魔の呪術だ。真に受けるな。
そう思うのに、彼の甘い言葉が、ささやくような低音ボイスが。私の胸をかき乱す。
「し……信じません、私」
「……まあ、そうだよね。だったら信じさせるまでだ。夫婦になって、一緒に生活しながら、ね」
ふっと苦笑した藍澤先生が、聴診器のある方と反対のポケットから、四つ折りになった紙を取り出した。
うっすら透けて見える文字……あの紙質……枠の色……い、嫌な予感しかしない!
藍澤先生の手によって開かれたその大きな紙は、私の予想通り――婚姻届。しかも、ほとんどが記入済みだ。
藍澤先生は、それを見やすいように目の前にあるローテーブルに広げた。
「ちょっと! いくら何でも急すぎますって!」
「そう? あとは美琴ちゃんが書くだけだよ? ほら、証人にはご両親がなってくれたし」
トン、と指さされた証人欄を見て、泣きそうになる。
「も~! なんて勝手なのうちの両親ってば! っていうか、藍澤先生のご両親はなんて言ってるんですか? 私、一度もお会いしたことないですよ?」
「うーん、うちの実家名古屋にあってちょっと遠いし、両親も忙しいからなかなか都合が合わなくてね。もちろん、電話で連絡はしてあるよ?」
「……藍澤先生も、お父様かお母様がお医者さんなんですか?」
医者の親もまた医者、というのはこの世界ではよく耳にする話だから、彼もおそらくそうなんじゃないかと思って尋ねる。