眠らせ森の恋
 どうやら、社長は一人暮らしのようだった。

 今まで、ただの一社員だったので、そんなことも知らなかった。

 いや、これから先もただの一社員で居たかったのだが。

 そんなことを思っていると、奏汰は、
「いや、明らかに他人っぽいから、いずれ、白河さんにお前をご紹介するまでになんとかしたいだけだ」
と言ってくる。

「一緒に住んでるだけでも、少しは恋人らしく見えるだろう」
と淡々と言ったあとで、

「まあ、俺と結婚することは黙っておいてやる」
と恩着せがましく言い出した。

「西和田ごときとちょっと親しくしただけでやられたんだろ?
 またいじめられるだろうからな」

 そう言う奏汰を上目遣いに窺いながら、
「あのー、西和田ごときって」
と訊いてみると、奏汰は、

「ああ、あいつ、専務のスパイだから」
とあっさり言ってくる。
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