琥珀の奇蹟-WOMEN-

内側にいたマスターが、すぐ私に気が付いた。

『どうだった?隆弘君』
『仕事でトラブルがあったみたいで、今日はダメみたいです…、マスターもうミルクティ作っちゃいました?』
『いや、まだだけど…キャンセルするかい?』
『せっかくだけど、ごめんなさい。明日も仕事だし、今日はもう帰ります』
『そうか…じゃ、今、会計するから、コート着ておいで』

マスターに促され、一旦席に戻ると、すぐ横の壁に掛けてあったコートを手に取り、袖を通すと首元にストールを巻き、鞄を手にレジに向かう。

カウンター横のスペースにある、これまたいつの時代のだか分からないけれど、年季の入ったレジスターで、会計を済まし、いつも通り、店の入り口までマスターが見送ってくれる。

これも、どの客にも行っているマスターのこだわりのようで、無意識だろうけれど、また来ようかなと思わせる効果がここにもありそうだった。

マスターが先に立ち、少し重めのドアを開けてくれると、お礼を言って、店外に出る。

通りは底冷えするほどの寒さで、よく見ると、小さな白いものが、ふわふわと舞っているようだった。

『…雪?』
『ああ、どうりで寒いわけだ』

さっき窓から見ていた時には気づかなかった。
この辺りでは珍しく、ホワイトクリスマスということか…。

『都会の雪だから積もることはないだろうけど、足元は滑りやすくなるだろうから、気を付けて帰りなさい』
『はい、ありがとうございます』
『それと…』
『?』
『いや…今度は、隆弘君と二人でいらっしゃい』
『そうですね…じゃ、ご馳走様でした』

笑顔で返し、マスターに見送られながら、お店を後にする。
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