極上求愛~過保護な社長の新妻に指名されました~
「わ…!」
部屋の中に入ると茜が感嘆の声を上げた。
足をひょこひょこさせながら部屋の奥まで進んでいくと、ガラス張りの窓から見える夜景に釘付けになっている。

急に元気になりすぎ。

さっきまでの緊張を一瞬で忘れたかのように目をキラキラさせる茜を見て思わず笑みがこぼれた。

「忘れてたけど、秋ちゃんってなかなかのお金持ちだったよね」
「お金持ちって…なんかその言い方嫌なんだけど」

茜の言葉を聞いて実家のことを思い出す。確かに家庭環境には恵まれていた方だと思う。
ありがたいことに小さい頃から不自由だと感じることはあまりなかった。手に入らないものもそんなになかった。

「俺も思い出してた、綺麗なものを見た茜が子供みたいにはしゃぐってこと」

…目の前の、彼女以外は。

「まぁでもとりあえず座ったら。ここからでも見えるから」
俺の言葉を聞いて少し恥ずかしそうに頬を染めた茜に、ひとまずソファに座るよう促す。

「もう部屋の中なんだし、靴脱いでも平気だろ」
「あ、そうだね…」
「あと、それも。とりあえず置けば」
「あ、うん」

胸に押し付けるようにして渡してしまった花束を、茜はずっと手に抱えたままだった。
まぁ、それが結構嬉しくもあったんだけど。

「たぶんそろそろ来るはずなんだけど…」
「え?来るって何が?」

そう茜が目を丸くしたのとほぼ同時にノックされ、聞こえた声にドア越しに返事をする。
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